鹿児島地方裁判所 昭和53年(わ)506号 判決
判決主文
被告法人大一総業株式会社を罰金九〇〇万円に、
被告法人株式会社ユニオントラストを罰金一、二五〇万円に、
被告人吉井勇治を懲役一年に、それぞれ処する。
被告人吉井に対し、右裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
罪となるべき事実の要旨
第一 被告法人大一総業株式会社は、鹿児島市千日町一四番二一号に本店を置き、金融業を営むもの、被告人吉井勇治は同会社の経営者としてその業務全般を統括しているものであるが、同被告人は、同会社の従業者として経理面を担当している黒坂大一郎らと共謀のうえ、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、
一 昭和五〇年四月九日から同年一一月三〇日までの事業年度において、所得金額が三、六五二万五、二二六円で、これに対する法人税額が一、四六八万一、一〇〇円であるのにかかわらず、昭和五一年一月三一日鹿児島市易居町一番六号鹿児島税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一一五万七、三五〇円でこれに対する法人税額は三二万三、九〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右事業年度の正規の法人税額との差額一、四三五万七、二〇〇円を免れた
二 昭和五〇年一二月一日から昭和五一年一一月三〇日までの事業年度において、所得金額が六、一二七万六七七円で、これに対する法人税額が二、四七八万九、一〇〇円であるのにかかわらず、昭和五二年六月二八日前記鹿児島税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、二三二万二、二八三円でこれに対する法人税額は四〇八万八、八〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右事業年度の正規の法人税額との差額二、〇七〇万三〇〇円を免れた
第二 被告法人株式会社ユニオントラストは、鹿児島市千日町一四番二一号に本店を置き、金融業を営むもの、被告人吉井勇治は同会社の経営者としてその業務全般を統括しているものであるが、同被告人は、同会社の従業者として経理面を担当している黒坂大一郎らと共謀のうえ、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、
一 昭和五〇年六月一日から昭和五一年五月三一日までの事業年度において、所得金額が四、四二六万六、八二二円で、これに対する法人税額が一、七五三万五、二〇〇円であるのにかかわらず、昭和五一年七月三一日那覇市旭町九番地那覇税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、〇一一万五、〇五〇円で、これに対する法人税額は三一九万三、六〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右事業年度の正規の法人税額との差額一、四三四万一、六〇〇円を免れた
二 昭和五一年六月一日から昭和五二年五月三一日までの事業年度において、所得金額が九、七一五万一円で、これに対する法人税額が三、九一二万五〇〇円であるのにかかわらず、昭和五二年七月二九日前記那覇税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、二八六万九、二二三円で、これに対する法人税額は四二九万四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右事業年度の正規の法人税額との差額三、四八三万一〇〇円を免れた
ものである。
被告法人大一総業株式会社被告人吉井及び弁護人の弁解について
被告法人大一総業株式会社・被告人吉井及び弁護人は、判示第一の一の事実につき、脱税の犯意を否認し、右被告法人の確定申告当時、右被告法人が出資の受入・預り金及び金利等の取締等に関する法律違反罪を犯しているということで、警察に関係書類を押収されていたため、所得金額の確定ができない状態で申告したものである旨、弁解している。
新野修治の大蔵事務官及び検察官に対する各供述調書、黒坂大一郎の当公判廷における供述・同人の大蔵事務官及び検察官に対する各供述調書を総合すれば、たしかに当時右法律違反容疑で関係書類の押収がなされてはいたが、検察庁においては税申告に必要な書類はすべて閲覧謄写の許可を与えており、現に、被告人吉井の使用人である黒坂大一郎において関連会社の一二三観光株式会社の帳簿類は閲覧・謄写し、さらに、また鹿児島西警察署においては右被告法人の店舗の一つである鹿児島三洋信販関係の帳簿の一部(集計表・個人別貸付台帳・個人別入金カード・借用書借受人の身上書など)を既に謄写していること、右鹿児島三洋信販分については、コピーしていた集計表や昭和五〇年一一月の集計表から昭和五〇年一一月期の貸付総額が把握でき、利益率をかければ大略の利益総額は判明する状態にあつたこと、また、伝票類によつて、雑収入等の把握も可能であつたこと、次に、支出についても、給与支払内訳明細書・各領収書によつて完全に把握できる状態にあつたこと、右被告法人の他の一店舗である沖縄三洋信販分については関係書類も押収されておらず正確な額が判明していたこと、が認められる。これらの事実によれば、被告人吉井及び被告法人において正確な確定申告をする意思さえ有したならば、それは容易に可能であつたものと認められる。
ところが、被告人吉井及び被告法人において、当初から右意思を有しなかつたことは、被告人吉井自身が大蔵事務官及び検察官に対する各供述調書においてのみならず当公判廷においても、経理担当の黒坂大一郎から当期のおよその利益額(四、〇〇〇万円から五、〇〇〇万円程度となること)を聞いてはいたものゝ、営業を拡大中であつたところからこれを営業資金として使用しようと考え、申告額を極めて少額である一〇〇万円程度とすることを指示した旨を認めていることからも明らかであつて、さらに右新野修治・黒坂大一郎らも被告人吉井にとつては書類が揃つていようがいまいが同じであり、決算書の組み立ては可能であつても正しい申告をする意思がなかつた旨述べていることからも明らかである。
これら諸事実をもつてすれば、被告人吉井には脱税の犯意の存したことは明らかであると云うべく、さらに前掲各証拠によれば被告法人代表者新野修治が、被告人吉井の右犯意に従つて右虚偽の申告をすることを了承して、被告法人としてこの申告をなしたものであることも明らかであり、被告人らの弁解は会計書類の押収に藉口した単なる言逃れにすぎない。
適用した罰条
一、判示各所為 法人税法一五九条一項、一六四条一項、刑法六〇条
一、刑種の選択(被告人吉井につき) 所定刑中各懲役刑選択
一、併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、四八条二項、一〇条
一、刑の執行猶予(被告人吉井につき) 刑法二五条一項
量刑事情
本件各被告法人は、被告人吉井一人の出資にかゝる会社で、いわば個人企業といつても過言でない状態であつたところから、被告人吉井は、本件各会社の経営については、正にワンマン的存在であり、被告人吉井の考えで経営方針が定められていたものである。被告人吉井は、本件各犯行については、いずれも違法であることを十分認識しながら、利益を事業拡張資金等に廻すため、「今、税金を支払うのはもつたいない」などと云つて、極めて少額の確定申告にとどめるよう部下に指示していたものであり、また、その態様としては、判示第一の一については、内容虚偽の貸借対照表を作成し、第一の二については、虚偽の損益計算書を作成し、判示第二の各事実については、虚偽の振替伝票を起票してこれを添付するなどして、内容虚偽の確定申告をなしているものである。そして、逋脱税額も、大一総業分について総額三、五〇五万七、五〇〇円、ユニオントラスト分について総額四、九一七万一、七〇〇円の合計八、四二二万九、二〇〇円の多額にのぼつているものであつて、その犯情は極めて悪質であるといわざるをえない。
しかも、被告人吉井は、当公判廷において、「どうせ修正申告するのだから、額はいくらでもよいと思つた」「脱税したとは思つていない」「悪いとは思わない」などとうそぶき、その態度にはいさゝかの反省も認められず、弁護人の当公判廷における真摯な説得によつて、ようやく口先だけの反省の情を述べるなど、犯行後の態度にも非常に問題がある。また、被告人吉井は、多数の前科前歴を有しているうえ、利益追求のためであれば違法も辞さないという態度が顕著であり、余後についても問題なしとしない。
しかし、本件においては、未だ、関係帳簿の改ざん、二重帳簿の作成にまでは至つておらず、極めて計画的犯行とまでは断じえないこと、その後修正申告をし、延滞税・加算税を含めて被告法人大一総業株式会社分で約四、七〇〇万円余を、株式会社ユニオントラスト分で約七、〇〇〇万円余を、それぞれ手形振出形式によつて分割支払中であり、今後も支払をなすことを誓約していること、現時点においては再犯を犯さないことを誓つていること、などの情状も認められるので、各被告法人については罰金刑を求刑よりわずかながら減額することゝし、被告人吉井については、今回に限り自力更生の機会を与えることゝし、主文のとおり量刑した次第である。
裁判所書記官 吉留克明
(裁判官 小田八重子)